※業態ごとの必要な厨房面積についての表を本記事最下部にまとめましたので、先に読みたい方はページを下にスクロールしてください。
厨房の位置づけと役割
いかなる業態の飲食店をつくる場合にも、厨房はお客様に料理を提供するための重要な役割をもっており、欠かすことのできない機能スペースであることを理解しなければなりません。飲食店にとって、人間の身体に例えると、厨房はお客様に料理を提供する心臓部分であり、厨房で働く料理人やホールで働くスタッフが円滑に仕事を進めるための最も重要な部分と言えるでしょう。十分な広さと機能を備えた厨房を計画することで、効率的な経営を実現でき、従業員が働きやすい環境をつくることができます。
しかし、実際のところ、飲食店をデザインするデザイナーの多くは、飲食店経営者が求める客席数の確保を厨房計画よりも優先したり、また、経験の浅いデザイナーは客席部分のデザインのことで頭がいっぱいで厨房計画に時間と労力を割けないという事情もあります。厨房計画はオペレーションや厨房機器に関する専門的な知識が必要であるだけでなく、料理人によって使い勝手の違いがあるため、それなりの経験と専門知識が必要になります。インテリアデザインに偏った設計・デザインをしてしまうと、経営効率が落ちたり、従業員がスムーズに働けなることで、結果的に来店するお客さんの減少につながってしまうおそれがあります。料理を注文してからテーブルに届くまでに長い時間待たせてしまっては、リピーターを獲得するのは難しいことは容易に想像できるかと思います。
最近の傾向
個人的な感想に過ぎませんが、昔からある飲食店の厨房を見ると、今と比べて少しゆったりめに作られていると感じます。特にチェーン店です。チェーン店は何十年という歴史があり、昔の厨房と最近の厨房を比較するのにうってつけです。昔の厨房は通路も広くとられており、中に入った感じ、わりと広く感じます。ですが最近の厨房は、通路も狭く、厨房の面積自体が縮小傾向にあり、中に入った感じとても狭く感じます。
この傾向が生まれた1つの原因は「経営者による客席数増加の要望」にあると思います。平面計画を「客席数×客単価×客席回転数=売り上げ」という単純な計算をもとに飲食店全体の平面計画を行ってしまっており、適切な厨房面積をとるという観点が弱くなってしまっているといえるでしょう。上記の計算自体は間違いではありませんが、適切な広さの厨房を用意しなければ、オペレーションに問題が生じたりしてしまいます。
2つ目の原因は「厨房機器の能力が上がったこと」が挙げられると思います。スチーム機能とコンベクション機能を併せ備えた高機能なスチームコンベクションオーブンが登場したり、また、それらが小型化することで厨房機器を設置する必要スペース自体が小さくなりました。最近では、厨房機器メーカーが「ワンオペ厨房」と称し、小型で高機能な厨房機器を並べることで1人でもオペレーション可能な厨房レイアウトを提案しています。近年の人手不足や人件費高騰により、従業員を雇うことが難しい飲食店をターゲットとした厨房レイアウトの提案です。
厨房面積は自由に決定できるのか
ここまで厨房面積の重要性についてお話してきましたが、現実的にはほとんどの場合、飲食店の面積を自由に決められるということは少ないです。なぜでしょうか?
飲食店を開業する際には、ほとんどの方は居抜き物件を探すからです。物件を借りる際、スケルトンの状態で借りれば自由に厨房面積と客席面積の比率を調整できますが、ほとんどの物件は居抜きになるかと思いますし、居抜きの方が工事費を抑えられるので、借りる方も居抜きを好む傾向にあります。厨房面積を広くとるために、わざわざ居抜き物件を一度スケルトンに戻す方は稀でしょうし、居抜きとスケルトンが同じ賃料で貸し出していたら、ほとんどの方は工事費を抑えられる居抜き物件を選ぶはずです。
居抜きの場合には、ある程度厨房区画がそのまま残った状態で始まりますし、スケルトンでも区画全体の形状は決まっているので、完全に自由に厨房面積と客席面積の比率を調整することはできません。
新築で建物を建てれば両者の比率を自由に調整できますが、新築費用、駐車場、土地の取得費用などを全てあわせると初期費用で1億円はくだらないので、ほとんど場合は、新築は物件対象から外れるかと思います。
厨房面積の決め方
結論から言うと、厨房面積やレイアウトを決めるときは、設計者(デザイナー)、経営者だけでなく、実際に厨房を使う料理人も含めて打ち合わせを行ってください。
今回は厨房面積の細かい設定方法の説明は省きますが、これはぜひ行ってほしいと思います。
なぜかというと、経営者は基本的にはどれだけ客席数を確保できるかについて最も強い関心をもっています。これは経営者マインドとしてはとても重要ですが、しばしば実際に厨房に立つ料理人にとって仕事がしづらい環境をつくってしまいます。
設計者(デザイナー)、経営者の中で、最も立場が上なのは誰でしょうか?もちろん経営者です。設計者(デザイナー)にとって施主様のいうことは絶対です。この2者のみで打ち合わせを行ってしまうと、設計者(デザイナー)は施主様の要望を実現するために様々なことを犠牲にしつつ調整して飲食店全体の計画を考えます。それだとまず犠牲になるのは「厨房面積」です。なので、厨房計画に関する打ち合わせをするときは、料理人を交えて進めた方が結果として経営効率の高い飲食店がつくれます。
どれくらいの厨房面積が必要なのか?
ここまで引っ張ってきましたが、どれくらいの厨房面積が必要なのでしょうか?
実際には、すべての業態においてどれくらいの面積が必要かというのは一概にはいえません。出店先の物件の形状や客席配置によって必要な大きさが異なるからです。
飲食店の全体面積に対する厨房の面積比の参考としては、以下のようなパーセンテージが1つの指標となります。
イタリアン・その他 | 25~30% |
ステーキレストラン | 35~40% |
居酒屋 | 18~30% |
和食料理店(うどん・そば含む) | 20~30% |
ビアレストラン | 15~20% |
ファミリーレストラン | 35~45% |
焼肉レストラン | 15~30% |
中華料理(ラーメン含む) | 18~30% |
終わりに
いかがでしたでしょか。
今回は必要な厨房面積について簡単にまとめてみました。
最後までお読みいただきありがとうございました。